ボグダノフ

 

ボグダノフ事件という事件があります。これは、フランスの科学テレビ番組の司会者だったボグダノフ兄弟が大学院で博士号を10年かけてとった際に、ほぼ内容的にはデタラメと思われる専門用語のサラダのような論文を物理の複数の雑誌に送ったのですが、その幾つかで採用され、掲載されたというものです。これは、物理の論文の査読審査が機能していない事が暴かれてしまった事を示しており、思想の分野でもっと意図的に行われたソーカル事件と同様の意味を持つ事件です。

 

しかし、今ではほぼ否定されているとはいえ、ボグダノフの論文には、なんらかの価値があったのではないか、というのが僕の直感です。一つは、ほぼ誰も理論を提出できないような領域である、宇宙の初まりの特異点を、時空の真空凝縮の視点という発想で切り込んでいるようにみえること。もう一つはよく知られた理論的な言明を他の(より複雑な)表現方法で記述していることの二点です。もちろん論理的に破綻している内容だとしてです。

まず、それが従来知られていない事や注目されていないことに何かのアイデアを持って切り込んで行くというのは正しい行為であるし、そこではあらゆることを試してみるべきで、時にはおかしな発想とおもわれることも試されて良いと思われます。また、一つのトリビアルな表現を異なるより特殊な表現方法で語るというのは表現方法の豊穣、道具を増やすことにつながることで歓迎すべきです。

論理的破綻の部分ですが、これは論文の審査においてきちんと破綻部分を指摘すべきだったのは当然です。しかし、もしこの論文が審査を通らなかったとしても、一つの詩の形をとった形体としての可能性は残されていると思います。

Arxiv(もしくはviXra)への掲載、なんらかの雑誌が破綻部分を修正させるか削除、もしくは論理的破綻をコメント付きで承諾して載せるというのが良かったのではないかと思います。

 

ちなみにArxivというのは作者が論文を出す直前に全員に回覧するために投稿するプレプリント(ないし論文そのもの)を集めたサイトであり、理数系の論文はほぼこのArxivに投稿されています。Arxivは分野が違う等の最低限のテェック以外の審査はありません。viXraはその最低限の審査さえ嫌う人たちが完全投稿自由な論文サービスを目的に作ったサイトです。

Arxiv http://arxiv.org/

viXra http://vixra.org/

 

ソーカル事件で批判された現代思想も、ボグダノフ論文も、数学的、理学的間違いを訂正、補完した上でまだ何か有用なことを示しているのかということは興味のあることです。その際は、テキストをもっと正しく言い換えて言っても良いのではないか、とも思います。

 

そして、最後にアナロジーの視点です。アナロジーのための数学、アナロジーのための物理学。こういった視点は従来、あやしげな与太話程度にしかみられていなかったことは確かです。しかし、複雑でより曖昧な問題を切り分ける道具としてのアナロジーはある程度、許されるのではないかと条件付きで思います。理学用語の適切なアナロジーの取り扱い方法を理学側が提示すると良いのではないかとも思いますが、恐らく両方の知識を持つ人がほぼいないため、不可能でしょう。違いますね、両方の知識を持っているだけの人は一杯います。

 

 

 

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